「音楽業界はやめとけ」と言われて、志望を続けていいのか迷っていませんか? 結論から言うと、その言葉は「音楽業界全体がだめ」という意味ではありません。「合わない人には、つらくなりやすい条件がそろっている」という警告に近いものです。だから、理由を一個ずつ分けて、自分に当てはまるかを確かめれば判断できます。
私はイベント・コンサートの業界で15年以上働き、レコード会社の担当者と仕事で顔を合わせていた時期もありました。その中で感じたのは、同じ「音楽業界」でも、会社と部署によって働き方がまるで違うということです。
この記事は、レコード会社、音楽事務所、ライブ制作、配信やチケットの会社などに、会社員として新卒で入りたい学生向けです。ミュージシャン本人として音楽で食べていく話は、ここでは扱いません。
この記事の要点は3つです。「やめとけ」の中身は、市場の変化・働く時間・仕事内容のずれ・採用枠・会社ごとの待遇差に分けられること。どれが自分に当てはまるかは、募集要項とOB・OG訪問で確かめられること。そして、目指すなら「音楽業界」ではなく「会社と職種」の単位で選ぶことです。
「音楽業界はやめとけ」と言われる5つの理由
まず、なぜそう言われるのかを分けて見ていきます。理由がわかれば、自分にとって本当に問題になるかどうかも見えてきます。
市場の中身が変わり続けている
CDが売れない業界、というイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、数字を見るともう少し複雑なんです。
日本レコード協会が2026年3月に発表した売上推計(今回から公表が始まった統計)では、2025年の国内の音楽ソフトと音楽配信の売上は、合わせて3,988億円でした。内訳は音楽ソフトが約57%、配信が約43%で、配信の中ではサブスク型のストリーミングが一番大きくなっています(日本レコード協会「音楽ソフト・音楽配信売上推計」2025年分、2026年3月4日発表。割合は発表の金額から算出、2026年10月18日時点で確認)。会員社以外も含めた新しい集計なので、これまでの生産金額の統計とは単純に比べられません。ライブでは、コンサートプロモーターズ協会の正会員社の総売上額が6,443億円で、前年の105.3%でした(コンサートプロモーターズ協会 令和7年度事業報告書、2025年1〜12月。正会員78社が対象で、国内のライブ市場全体の数字ではありません)。
これらの数字からは、市場が縮んでいるというより、お金の流れる場所が移っている様子がうかがえます。ただし、市場全体の売上が伸びていても、新卒の採用人数や入社後の給与が増えるとは限りません。待遇は、志望する会社の募集要項で確かめてください。その変化に合わせて仕事のやり方も変わるので、「入社時に思い描いた仕事がずっと続く」とは限りません。変化についていくのが苦にならないかどうかで、受け止め方が分かれるところです。
土日・夜に動く部署がある
ライブやイベントは、多くが週末や夜に開かれます。そのため、ライブ制作や現場に関わる部署では、平日休みや夜の対応が前提になることがあります。
私が関わってきたコンサートの現場でも、機材の搬入から設営、本番、撤去までが一続きで、まさに体力勝負でした。
ただ、すべての部署がそうではありません。経理や法務、配信まわりの部署など、平日の日中が中心の仕事もあります。「音楽業界は土日がない」とひとまとめにせず、志望する職種の勤務形態を見ることが先です。
「好き」と仕事の中身がずれやすい
音楽が好きで入社しても、毎日アーティストと曲を作るわけではありません。実際には、予算の管理、スケジュールの調整、契約や権利の確認、数字の報告といった仕事が多くを占めます。
アーティストを発掘し、作品づくりを担うA&R(制作担当)は人気が高い職種です。ただ、新卒で最初から配属されるとは限らず、営業や宣伝から始まる人もいます。職種を決めずにグループ一括で採用し、職種や配属先を本人の希望と適性をもとに決める会社もあります(エイベックス「“志”新卒採用」、2022年入社向け)。
ここでつらくなるのは、「好きな音楽に関われない」と感じたときです。逆に、売り方や届け方に興味が持てる人なら、むしろ楽しめる部分かもしれません。
採用の枠が小さく、入口が偏っている
大手レコード会社は応募が集まりやすく、新卒の採用人数も大きくありません。そのため、「受けても受からないからやめとけ」と言われることがあります。
ただ、音楽業界の入口はレコード会社だけではありません。ライブ制作、チケット、配信、音楽出版、楽器や音響の会社など、音楽に関わる会社は幅広くあります。どの会社が新卒で入りやすく、どこが難しいのかは、音楽業界の新卒就活の難しさと入口の選び方で詳しく整理しました。難易度の目安は音楽業界の就職難易度ランキングも参考になります。
会社の規模と雇用形態で待遇が違う
「音楽業界は給料が安い」という声もよく聞きます。でも、これも会社によって差が大きい部分です。
大手のグループ会社と、数人で運営する事務所やレーベルでは、給与の仕組みも福利厚生もまったく違います。また、採用ページを見ると、新卒の正社員採用とは別に、契約社員やアルバイトの採用枠を設けている会社もあります(エイベックス採用サイト、2022年版)。
なお、「ミュージシャンは稼げない」という話と、会社員の待遇の話は別物です。音楽で活動する人の収入についてはミュージシャンが稼げない理由で扱っています。会社員として入るなら、見るべきは志望先の募集要項に書かれた条件です。
「やめとけ」が当てはまる人・当てはまらない人
ここまでの理由を、向き不向きの目安として表にまとめました。どちらかに決めつけるためではなく、自分の気持ちを整理するために使ってください。
| 観点 | つらくなりやすい人 | 楽しめやすい人 |
|---|---|---|
| 働く時間 | 土日と夜はどうしても休みたい | 平日休みでも気にならない |
| 仕事内容 | 曲づくりだけに関わりたい | 売り方・届け方にも興味がある |
| 変化 | 決まった仕事を続けたい | 配信や新しい売り方を試したい |
| 好きの範囲 | 好きなジャンル以外は担当したくない | 知らない音楽にも興味を持てる |
| 配属 | 希望の部署以外は考えられない | 別の部署から始めても納得できる |
左の列に多く当てはまっても、すぐに諦める必要はありません。その場合は、平日中心の部署や、制作から少し離れた職種を探すという選び方もあります。音楽業界に向いている人の特徴は、音楽業界に向いている人の特徴でも紹介しました。
噂を自分で確かめる4つの方法
「やめとけ」が本当かどうかは、自分で確かめられます。ネットの声を集めるより、志望先の情報を直接見るほうが確実です。
募集要項で「職種・勤務・雇用」を読む
最初に見るのは、志望する会社の新卒募集要項です。採用職種が総合職なのか職種別なのか、勤務時間や休日の書き方、雇用形態を確かめます。
たとえば、休日欄が「週休2日(シフト制)」なら、土日に出る可能性を考えておきましょう。「契約社員として採用、一定期間後に登用あり」とあれば、登用の条件がどう書かれているかも見ておきたいところです。書かれていない点は、説明会や面接で聞いてかまいません。
会社の事業の中身を確かめる
同じレコード会社でも、CDの販売に強い会社、配信やライブに力を入れる会社など、収益の軸が違います。公式サイトの事業紹介や、上場している親会社があれば有価証券報告書の事業内容を見てみましょう。
ここで知りたいのは、「入社したら、どの事業の仕事をする可能性が高いか」です。事業の中身がわかると、自分が担当しそうな仕事も想像しやすくなります。
たとえば、ライブ事業の割合が大きい会社なら、週末の現場に関わる可能性は高くなります。配信や権利の管理が中心の会社なら、データや契約を扱う時間が長くなるかもしれません。グループ会社が多い場合は、どの会社の採用なのかも確かめておくと、入社後のずれを減らせます。
OB・OG訪問で働き方を聞く
働き方の実感は、中で働く人に聞くのが一番です。私なら、次のような質問をします。
- 入社1年目は、どの部署でどんな仕事をしていましたか?
- 繁忙期は、いつ頃でどのくらい続きますか?
- 希望の部署に行けなかった同期は、どうしていますか?
「激務ですか?」と聞くより、時期や部署を具体的にしたほうが、答えも具体的になります。また、話してくれるのはあくまでその人の経験です。できれば2人以上に聞き、部署や入社年の違いで話がどう変わるかを比べてみてください。
アルバイトやインターンで現場の時間を体験する
ライブ会場の運営スタッフや、インターンで現場の時間の流れを体験するのも一つの方法です。週末に長時間働く感覚が、自分にとってどうなのかが体でわかるはずです。
ここで「思ったよりつらくない」と感じれば、不安は一つ消えます。「やっぱりきつい」と感じたなら、平日中心の職種に目を向けるきっかけになります。
私が現場で見てきた音楽業界の会社員
私は15年以上、コンサートやイベントの仕事に関わってきました。営業を担当していた時期もあり、本番の現場にも立ってきました。
正直に言うと、体力的にきつい時期もあったんです。
一方で、レコード会社の担当者とは、イベントの企画やタイアップで打ち合わせをしたり、仕事で顔を合わせたりしていた時期もありました。
だからこそ、「やめとけ」を全部信じる必要も、全部無視する必要もないと思っています。どの部分が自分に当てはまるのかを見極めることが、後悔しない選び方です。
それでも目指すなら:応募前にメモしたい6項目
最後に、志望先を比べるときのメモの形を置いておきます。会社ごとにこの6項目を埋めてみてください。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 事業の軸 | CD・配信・ライブ・権利など、何で売上を立てているか |
| 採用職種 | 総合職か職種別か、配属はいつ決まるか |
| 勤務と休日 | 土日の勤務、シフト制かどうか |
| 雇用形態 | 正社員か契約社員か、登用の条件 |
| 1年目の仕事 | OB・OG訪問や説明会で聞いた内容 |
| 自分の興味 | その会社で、どの仕事なら楽しめそうか |
空欄になった項目が、次に確かめることです。全部が埋まる会社は多くないので、説明会や面接の質問に回しましょう。
よくある質問
音楽に詳しくないと、音楽業界は難しいですか?
詳しさに加えて、「なぜその音楽が届いたのか」を考えておくと、話せることが増えると私は感じています。ただ、選考で何を重視するかは会社によって違います。説明会や採用ページで、求める人物像を確かめてください。
「やめとけ」と言われる会社は、ブラック企業ですか?
そうとは限りません。土日勤務や繁忙期があることと、労働環境が悪いことは別の話です。勤務時間や休日の書き方、残業の扱いなどを募集要項で確かめ、わからない点は質問しましょう。
楽器ができなくても、音楽業界に入れますか?
会社員として働く職種の多くは、楽器の技術よりも、調整や企画、営業の力が中心です。ただし、制作や音響の職種には技術を求める募集もあります。応募する職種の要件を確認してください。
一度入ったら、別の業界に移れなくなりますか?
そうとは言い切れません。私の周りでも、音楽業界から別の業界の仕事に移った人はいます。私も、イベント・コンサート業界からWebマーケティングの仕事に移りました。
まとめ:「やめとけ」を分解して、自分で判断する
「音楽業界はやめとけ」という言葉の中身は、市場の変化、土日や夜の勤務、好きと仕事のずれ、採用枠の小ささ、会社ごとの待遇差に分けられます。どれが自分に当てはまるかは、人によって違います。
最初の一歩として、気になる会社を2〜3社選び、6項目のメモを埋めてみてください。そのうえで、空欄になった項目をOB・OG訪問や説明会で確かめていきましょう。そうすれば、「やめとけ」という声に振り回されず、自分の言葉で志望を決められるはずです。