「エンタメ業界のホワイト企業ってどこですか」と聞かれるたび、私は答えに詰まってきました。口コミサイトを開けば同じ会社に星5と星1が並んでいるし、業界内の噂話はだいたい「誰かの部署の話」でしかないからです。
そこでこの記事では、「ホワイトかどうか」を私の感想では一切判定しません。使うのは、誰でも同じものを見られる公開情報だけです。有価証券報告書の「従業員の状況」と、厚生労働省・経済産業省の認定企業一覧。この2つだけでエンタメ業界32社を並べ直しました。
数字はすべて2026年9月20日に、各社の有価証券報告書PDFと各省庁が公開している認定企業一覧ファイルで確認しています。どの数字がどの書類の何ページから来たのかは、すべて記録してあります。
結論:有報と公的認定だけで並べると、上位はこの5社だった

先に結果からお伝えします。エンタメ・コンテンツ関連の上場32社を、後述する3つの指標でスコア化したところ、上位はこうなりました。
働きやすさスコア 上位5社(12点満点)
- イオンファンタジー(12点)
- バンダイナムコホールディングス(10点)
- ソニーグループ(10点)
- 博報堂DYホールディングス(10点)
- コナミグループ(10点)
1位のイオンファンタジーは、くるみん・プラチナくるみん・えるぼし・プラチナえるぼし・健康経営優良法人2026を全部持っている唯一の会社でした。平均勤続年数は15年9ヵ月、男性の育児休業取得率は100.0%。子ども向け遊戯施設を運営する会社で、ショッピングセンターの中にあるゲームコーナーの会社、と言えば伝わるでしょうか。
そして押さえておきたいのが、この会社はエンタメ業界の年収ランキングでは32社中の最下位グループだということ。平均年間給与は4,968,374円です。年収の高さと、働きやすさの指標は連動していませんでした。
「うちの業界のホワイトはどこか」を、求人を持っている人に直接聞く
マスメディアンは宣伝会議グループが運営する、広告・マスコミ・エンタメ業界に特化した転職エージェントです。この記事で扱った公開情報の先にある「配属先ごとの実態」は、求人を扱っている担当者に聞くのが早道です。
この記事が使った3つの指標と、あえて使わなかったもの

スコアは3項目・各4点の12点満点です。計算方法を全部書いておきます。
指標1:平均勤続年数(4点)
有価証券報告書の「従業員の状況」に載っている、提出会社の平均勤続年数です。15年以上で4点、12年以上で3点、9年以上で2点、6年以上で1点、6年未満は0点としました。
勤続年数は、辞めた人が多ければ短くなります。制度がどうあれ、実際に人が残っているかどうかが出る数字です。
指標2:男性労働者の育児休業取得率(4点)
2023年度から、女性活躍推進法の対象企業は有価証券報告書で「管理職に占める女性労働者の割合」「男性労働者の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の3つを開示しています。このうち男性育休取得率を使いました。90%以上で4点、70%以上で3点、50%以上で2点、50%未満で1点、非開示は0点です。
男性が育休を取れる会社は、一人抜けても現場が回る人員設計になっているということ。休暇制度の有無より、実際の取得率のほうが実態に近いと考えました。
指標3:公的認定(4点)
くるみん系(くるみん/トライくるみん/プラチナくるみん)で1点、えるぼし系で1点、健康経営優良法人2026(大規模法人部門)で1点。さらにプラチナ認定またはホワイト500を持っていれば1点を足して最大4点です。いずれも厚生労働省・経済産業省/日本健康会議が公開している一覧ファイルに社名があるかどうかだけで判定しました。
あえてスコアに入れなかったもの
男女の賃金の差異は、表には載せましたがスコアには入れていません。この数値は職種構成や管理職の年齢構成に大きく左右されるため、数字が低い=働きにくい、とは読めないからです。たとえばサンリオの全労働者ベースの差異は43.5%ですが、正社員だけで見ると82.4%と有報に注記されています。
口コミサイトの評点、転職メディアの独自ランキング、「業界内での評判」も使っていません。出所をたどれない数字は、この記事では1つも扱わないことにしました。
働きやすさスコア ランキング上位15社

2026年9月20日時点で確認できた数値です。括弧内は証券コード。「※持株」は提出会社が持株会社で、数値が本社管理部門のみを指すことを示します。事業会社名を添えた欄は、同じ有価証券報告書に併記されていた中核会社の値です。
| 順位 | 会社 | 平均勤続年数 | 男性育休取得率 | 女性管理職比率 | 男女賃金差異(全労働者) | 公的認定 | スコア |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | イオンファンタジー(4343) | 15年9ヵ月 | 100.0% | 52.2% | 75.8% | くるみん/プラチナくるみん/えるぼし★★/プラチナえるぼし/健康経営優良法人 | 12 |
| 2 | バンダイナムコHD(7832) | 16.7年 ※持株 | 89.1%(グループ) | 25.0%(グループ) | ― | くるみん5回/えるぼし★★/健康経営優良法人(いずれも事業会社) | 10 |
| 3 | ソニーグループ(6758) | 16.0年 | 84% | 20.5% | 82.8% | くるみん4回+プラス/プラチナえるぼし | 10 |
| 4 | 博報堂DYHD(2433) | 12.4年(㈱博報堂) | 100.0%(㈱博報堂) | 9.5%(㈱博報堂) | 72.3%(㈱博報堂) | くるみん2回/えるぼし★★★/健康経営優良法人 | 10 |
| 5 | コナミグループ(9766) | 10.8年 ※持株 | 100.0% | 13.6% | 76.8% | くるみん2回/えるぼし★★★/健康経営優良法人(ホワイト500) | 10 |
| 6 | 日本テレビHD(9404) | 18.0年(日本テレビ放送網㈱) | 93%(同) | 18.8%(同) | 83.2%(同) | えるぼし★★(日本テレビ放送網㈱) | 9 |
| 7 | 電通グループ(4324) | 14.3年 ※持株 | 100%(無期雇用社員) | 21.7% | 79.2% | くるみん/えるぼし★★★(㈱電通) | 9 |
| 8 | TBSホールディングス(9401) | 14.0年 ※持株 | 95%(㈱TBSテレビ) | 18.3%(同) | 82.1%(同) | 健康経営優良法人(ホワイト500) | 9 |
| 9 | テレビ朝日HD(9409) | 19.1年(㈱テレビ朝日) | 100.0%(同) | 17.6%(同) | 84.1%(同) | 一覧に社名なし | 8 |
| 10 | テレビ東京HD(9413) | 15.81年(㈱テレビ東京) | 100%(同) | 18.6%(同) | 有報に記載なし | 一覧に社名なし(子会社1社がえるぼし★★★) | 8 |
| 11 | 東映(9605) | 14.1年 | 100.0% | 23.0% | 81.9% | 健康経営優良法人 | 8 |
| 12 | エイベックス(7860) | 12.8年 ※持株 | 100.0% | 15.0% | 56.4% | くるみん(グループ4社) | 8 |
| 13 | サンリオ(8136) | 12年1ヶ月 | 88.2% | 44.1% | 43.5%(正社員82.4%) | えるぼし★★/健康経営優良法人 | 8 |
| 14 | フジ・メディアHD(4676) | 18.7年(㈱フジテレビジョン) | 77.8%(同) | 23.7%(同) | 80.4%(同) | 一覧に社名なし | 7 |
| 15 | 任天堂(7974) | 14.6年 | 82% | 5.8% | 72.7% | くるみん2回 | 7 |
えるぼし認定企業一覧には「企業の意向により、本一覧に掲載していない企業があります」という注記があります。一覧に社名がないことは、認定を受けていない証拠にはなりません。「確認できなかった」と読んでください。
業種別に見ると、数字の出方がはっきり分かれる

放送:勤続年数は全業種で最長、ただし認定は薄い
テレビ朝日19.1年、フジテレビジョン18.7年、日本テレビ放送網18.0年、テレビ東京15.81年。キー局の事業会社はどこも勤続年数が18年前後で、他の業種を引き離しています。男性育休取得率も93〜100%。
いっぽうで公的認定は日本テレビ放送網のえるぼし★★と、TBSホールディングスの健康経営優良法人(ホワイト500)くらいでした。局の正社員と、番組制作を担う関連会社では労働環境が違う、という業界構造がそのまま出ている気がします。テレビ業界への就職を考えているなら、受けるのが局なのか制作会社なのかを最初に切り分けたほうがいいです。
ゲーム:会社によって勤続年数が3倍違う
任天堂14.6年、カプコン11.2年に対して、KADOKAWA4.8年、MIXI6.2年、サイバーエージェント6.5年、ディー・エヌ・エー7年1ヶ月。同じ「ゲーム・エンタメ」でも数字がここまで割れる業種は他にありません。
カプコンは数少ない例外で、年次有給休暇取得率86.0%と平均残業時間(法定外)11.9時間/月を有価証券報告書に載せています。有給取得率や残業時間といった「時間」の数字を自分から出している会社は、エンタメ関連32社のうち6社だけでした。カプコンの選考難易度を調べている人は、この開示姿勢もあわせて見ておくといいと思います。コーエーテクモも国内グループの年次有給休暇取得率79.4%、離職率4.3%を開示しています。
映画・興行:東映が抜けている
東映は男性育休取得率100.0%、女性管理職比率23.0%、健康経営優良法人の認定あり。松竹は男性育休60.0%で健康経営優良法人。東宝は87.5%ですが、今回確認した3つの認定一覧に東宝株式会社の社名はありませんでした(グループの東宝ファシリティーズ株式会社は健康経営優良法人に掲載)。
音楽・芸能:非上場が多く、比べられる相手が少ない
エイベックスとアミューズはどちらも男性育休取得率100.0%。アミューズは女性管理職比率44.6%と、今回の32社で2番目の高さでした。
おもしろいのは、ソニーグループの有価証券報告書が主要子会社の数値も載せていること。株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの女性管理職比率28.1%、男性育休取得率75%、男女賃金差異68.1%という数字が読めます。ソニーミュージックの就職を目指すなら、親会社の有報は一度目を通す価値があります。
テーマパーク・レジャー:有給取得率を出している珍しい業種
オリエンタルランドは男性育休取得率91.6%、そして年次有給休暇取得率を社員99.5%・社員以外93.6%と開示しています。この水準を公開している会社は業界全体でもほとんどありません。ただし今回の3つの認定一覧に株式会社オリエンタルランドの社名はなく、スコアは6点にとどまりました。オリエンタルランドへの就職を考えている人は、社員と「社員以外」で数字が分けて書かれている点に注目してみてください。ラウンドワンも提出会社の男性育休取得率が100.0%でした。
広告:認定の厚さでは業界トップ
株式会社電通はくるみんとえるぼし★★★、株式会社博報堂はくるみん2回とえるぼし★★★、加えて博報堂DYホールディングスは健康経営優良法人。認定の数だけ見れば広告2社が業界で最も厚い布陣です。ただし博報堂の女性管理職比率は9.5%と、32社の中では低いほうに入ります。
本社はホワイトでも現場は別、という構造の話

私はコンサートとイベントの現場に15年いました。ライブハウスから野外フェス、アリーナ、ドームまで。そこで何度も見たのが、同じ会社の名刺を持っている人どうしで生活時間がまるで違う、という光景です。
企画を立てて発注する本社の担当者は、打ち合わせが終われば帰ります。いっぽうで現場に立つ側は、搬入の日から撤去が終わるまで会場に張り付く。ツアーの本数が重なる時期になると、それが数日単位で続きます。有給取得率が90%を超えていても、その週だけを切り出せば別の業界の話に見えるはずです。
取引先の担当者から「うちも最近ホワイトになってね」と言われたことが何度もあります。話をよく聞くと、それはたいてい本社の制度が変わった話でした。現場の稼働そのものが減ったという話にはなかなかならない。
平均勤続年数も男性育休取得率も、会社全体をならした数字です。平均は、いちばん重い部署のいちばん重い週を消してしまいます。この記事のスコアで測れているのは「会社としての制度と定着」であって、あなたが配属される部署の忙しさではありません。
このスコアが測れていないもの:①本社職と現場職の差 ②契約社員・アルバイトの労働環境(有報の平均年間給与や勤続年数は原則として正社員ベース) ③制作会社への外注で成り立っている部分。エンタメの現場は、元請けの数字がきれいなほど下請けに負荷が寄る構造になりやすい業界です。
非上場・制作会社の働きやすさをどう確かめるか

ここまで有価証券報告書を使ってきましたが、エンタメ業界は非上場企業の比重が高い業界です。ホリプロ、吉本興業、スターダストプロモーション、STARTO ENTERTAINMENT、ソニー・ミュージックエンタテインメント、集英社。名前が知られている会社ほど有報がない、ということが起きます。制作会社にいたってはほぼ全社が非上場です。
数字が手に入らないとき、私は次の順番で確認しています。
- 厚生労働省の認定企業一覧を社名で検索する。 くるみん・プラチナくるみん・えるぼしはExcelの全国版が無料で公開されています。非上場でも認定は受けられるので、ここに載っていれば1つの材料になります。
- 健康経営優良法人の一覧を見る。 経済産業省と日本健康会議の事務局サイトで、大規模法人部門の認定法人がExcelで公開されています。グループのどの法人が認定を取ったのかまで書かれています。
- しょくばらぼ(厚生労働省の職場情報総合サイト)で社名を引く。 認定マークの有無や企業が公表した職場情報を社名で検索できます。
- 就職四季報(東洋経済新報社)の3年後離職率・有給取得日数・残業時間欄を見る。 非上場でも掲載されている会社があります。「NA」が並ぶ会社はその情報を出していない、という事実が分かります。
- 求人票の固定残業代を読む。 基本給に何時間分の残業代が含まれているかは、その会社が前提にしている月間残業時間そのものです。45時間を超える設定になっていれば、36協定の特別条項を使う前提だということが分かります。
ユースエール認定は「常時雇用する労働者が300人以下の事業主」が対象です。大手企業に認定がないのは当たり前なので、大手を測る物差しには使えません。逆に中小の制作会社を見るときは、有力な材料になります。
転職で「働きやすさ」を確かめる6つの質問

公開情報でたどり着けるのはここまでです。この先は、求人を扱っている人に聞くしかありません。エージェントとの面談で私が投げてきた質問を挙げておきます。
- 「配属予定の部署で、直近1年に辞めた人は何人で、理由はどう聞いていますか」
- 「固定残業代は何時間分ですか。超えた分は全額支給されますか」
- 「本社の企画・管理職と、現場の制作・運営職で、勤務実態はどれくらい違いますか」
- 「繁忙期は年に何回、1回あたり何週間続きますか」
- 「契約社員・嘱託の比率と、正社員への登用実績は何人ですか」
- 「くるみんや健康経営の認定は、グループのどの法人が取っているものですか」
最後の質問は効きます。持株会社や本社機能の会社だけが認定を取っていて、実際に働く事業会社は対象外だったというケースが、今回の32社の中にも複数ありました。求人票に「グループとして健康経営優良法人認定」と書いてあったら、どの法人なのかを確認してみてください。
質問に淀みなく答えられる担当者は、その会社に人を送り込んだ実績があるということです。答えが曖昧なら、それも情報になります。
この6つを、そのまま聞ける相手を持っておく
マスメディアンは広告・マスコミ・エンタメ業界に特化しているぶん、部署単位の離職状況や現場の稼働まで話が通じる担当者に当たりやすいエージェントです。登録は無料で、今すぐ転職する気がなくても相談だけできます。
よくある質問

エンタメ業界にホワイト企業はありますか
公開情報で測れる範囲なら、あります。平均勤続年数15年以上・男性育休取得率90%以上・公的認定あり、という3つを同時に満たす会社が今回の32社に複数ありました。ただしそれは会社単位の話で、配属先単位の話ではありません。
年収が高い会社ほど働きやすいですか
今回のデータでは連動していませんでした。スコア1位のイオンファンタジーは年収ランキングでは最下位に近く、年収上位の放送局・広告は認定の面で薄い。年収と働きやすさは別々に見たほうが実態に近づきます。
くるみんやえるぼしがない会社はブラックですか
そうは言えません。えるぼしの一覧には「企業の意向により掲載していない企業がある」と明記されていますし、持株会社や従業員数の少ない会社は公表義務の対象外になることもあります。認定がないことは「確認できない」であって「ない」ではない、と切り分けてください。
口コミサイトの評価は参考になりますか
この記事では1件も使っていません。投稿者の部署も在籍時期も分からないうえ、同じ会社に正反対の評価が並ぶからです。「誰が、いつの、どの部署の話か」が特定できる情報だけを判断材料にするのが安全だと思います。
未経験からでもエンタメ業界に入れますか
職種によります。現場運営やイベント制作は未経験の入口が比較的広い領域です。イベント業界の仕事内容と目指し方で職種ごとの入り方を整理しているので、あわせて読んでみてください。
まとめ:数字で測れる範囲を知ったうえで、残りを人に聞く

エンタメ業界の「ホワイト」を、感想ではなく公開情報だけで並べ直してみました。結果として見えたのは、年収の高さと働きやすさが連動していないこと、放送局は勤続年数が長いのに認定が薄いこと、そして持株会社の数字は実態を映さないことの3つです。
今回のスコアは、会社が外に出している情報の量と質を測ったものでもあります。有給取得率や残業時間を自分から公開している会社は32社中6社だけでした。開示している会社は、少なくとも測られる覚悟がある。そこは評価していいところだと思っています。
この記事の更新方針:数値は年1回、各社の有価証券報告書の提出時期に合わせて入れ替えます。3月期決算は6月下旬、2月期決算(松竹・東宝・イオンファンタジー)は5月、12月期決算(電通グループ・ネクソン)は3月、9月期決算(サイバーエージェント)は12月。公的認定は、くるみん・えるぼしが毎月更新、健康経営優良法人が毎年3月の発表に合わせて確認し直します。
残りの半分は、公開情報の外にあります。配属先の部署がどうか、繁忙期が何週間続くか、上司が誰か。そこは人に聞くしかありません。聞ける相手を先に確保しておくのが、遠回りに見えていちばん早い方法です。